総義歯について

義歯(入れ歯)について

最近は様々な入れ歯の種類があり、入れ歯本来の目的ではなく、どの種類の入れ歯を作製するかに焦点が向けられています。

入れ歯の役割は日常生活を支えるための、噛む(食べる)・発音する(話す)などの機能面と入れ歯と気付かれにくい審美面の双方が成り立つことが必要です。

これまでの話を例えると、「自分に似合う洋服を探す」のではなく、「自分に最適な洋服を作る」というのが義歯には重要であると言えます。

入れ歯でお悩みの患者様は、ご自身の満足する洋服に出会っていないのかもしれません。

つまり、患者様が本当に必要にしている機能や審美性を持ちあわせた義歯が作製できていない可能性があると言えます。

義歯(入れ歯)の本質

入れ歯の本質を考えてみましょう。
歯を欠損することによって、機能を失います。特に総義歯の場合は無歯顎になるため、より機能を回復する重要性が高まります。

口腔内から機能を失うことは、身体的にも私生活にも悪影響を及ぼします。したがって、患者様個々人の口腔内にある課題を発見し、その課題をどのように解決するべきか?を考えることが義歯制作の本質になります。

また、患者様の要望を受け止め、義歯制作のに役立てていくとも重要であることを付け加えます。

義歯(入れ歯)の種類で満足度が変化するわけではない

著名な先生と著名な歯科技工士5名による、どの技法で製作された調査した本があります。

この本では同一の難症例に対して、「吸着力があり、噛める入れ歯を作製する」というテーマでしたが、結果的に満足度という点ではどの技法で作製された義歯も同様の満足度であった。と結論付けられています。

また、日本補綴歯科学会の論文でも満足度という点では有意差は認められないという結論を出しています。

したがって、作製方法はそれぞれ違っていても、患者様が得られる満足度に変化が無いということになります。

満足度の高い義歯には共通点がある

どの技法で作製されたとしても、下顎位の設定と下顎義歯を安定させるという点はすべての技法の共通点であると言えます。この点を押さえて義歯を作製することが重要で、義歯作製の土台であると言えます。

そこから、印象採得(歯型)や人工歯の排列などを基本に忠実に行うことで、機能的・審美的に優れた入れ歯が作製できると言えます。

歯科医師としては、高齢者へのオーラルフレイルが懸念される今、食事を噛める、飲み込める機能の維持と回復が重要であると考えています。そのために、修理しながらできるだけ長く入れ歯を使い続けられることも念頭に置く必要があります。

※下顎位とは、上顎に対する下顎の位置のことを言います。

義歯(入れ歯)の修理・リラインの重要性

義歯を作製し、使用し続けるためには修理(・調整)やリライン(入れ歯の維持・安定を得る方法)が必要になります。

年齢を重ねることで口腔内は変化していきます。また、義歯を使用していれば摩耗もしてしまいます。そうして変化をすることで、作製した義歯が合わなくなってくることは容易に想像することができると思います。

そのため、入れ歯の機能をできるだけ長く維持することも義歯作製では重要であると言えます。入れ歯を作製するだけではなく、何か問題があったときに対応できることも重要なポイントの一つであります。

定期的に通院していただくことで、より良いタイミングで修理・リラインなどの対応をさせていただきます。義歯の再作成が必要な場合はありますが、そのときにもスムーズに対応できますので、健全な口腔内を維持するためにも定期検診は継続して行うようにしてください。

総義歯治療の実際(ケーススタディ)

患者情報

年齢・性別 70代女性
主訴 全顎的な治療をしてほしい、噛みづらさを改善したい

初診時の口腔内写真

初診時のパノラマ/デンタルレントゲン


クラウンが浮き上がっていることがわかる


残存歯の状態は悪く抜歯が必要な部位がほとんどの状態

口腔内の総合診査

CTによる顎関節の診査

問題のある咬合状態を長期間放置してしまっていた事により、顎関節の変形が認められた。
顎関節は弱い部分なので、継続的に負担がかかることによって顎関節は変形してしまう。

セファロよる診査

側方から確認すると、下顎下縁の不揃いや前歯がフレアー(前方に傾斜している)していることが認められる。
また、正面から確認すると、下顎が若干右側に偏位(ズレている)こともわかった。

※下顎下縁の不揃いとは、下顎骨が2重に見えていることを指しています。

模型による分析

適正な歯列から逸脱していることがわかる。
ニュートラルゾーンから外れていて、歯根自体が長期の不正咬合により移動しているため、
残存歯を残して理想的な歯列にしていくことが困難である

※ニュートラルゾーン=舌の圧と頬や口唇からの圧の双方が均衡している領域のこと

模型を咬合器に付着し、分析

咬合器に模型を付着し、口腔内を再現。
前歯のフレアー、不適切な咬合平面、右側臼歯部顎堤に噛み込んでいることがわかった。

※顎堤=歯が生えていた、土手のように盛り上がっている歯肉の部分。

審美的な評価

前歯部の審美不全が認められる

総合診査からの治療方針

上下残存歯は予後不良なこと。残すことで適切な咬合関係の付与が困難なことから、抜歯し、即時義歯にてまずは顎位の変化が起こるか確認することとした。

即時義歯の作成

顎位を模索するためフラットテーブルを付与

即時義歯

即時義歯装着後の診査

新義歯装着時の顎関節

装着時のセファロ

歯冠切断及び義歯の装着

義歯の装着

※赤いのは接着剤です。

これ以降、ティシュコンディショナーにて義歯の形態を模索していきます。

※ティッシュコンディショナーとは、粘膜の状態を正常の状態へ戻す処置のことです。

歯冠切断及び義歯の装着

義歯を装着していると、上下顎とも義歯辺縁の形態変化が認められる。

義歯の装着前後の写真

義歯装着前

義歯装着後

義歯の形態の調整

口輪筋と義歯の調和確認及び義歯外形を模索

食事後少し食べ物がほっぺた側に残るとのことで、
ティシュコンディショナーにて口輪筋との調和確認。

ニュートラルゾーンに即した義歯概形を模索

抜歯は2回に分けて行った

がんを併発されてしまったので、2回に分けて抜歯をおこなった。
現在の健康状態は良好。

患者様から実際にヒアリングしながら調整

患者さんから実際にヒアリングをすると、隠れていた問題が浮き彫りになるので、よく話すようにしています。

治療用義歯の完成

治療用義歯が完成したら、最終義歯にトランスファー(移転)していきます。

デジタル印象

デジタル印象で、治療用義歯を複製しました。
上顎犬歯の膨らみが気になるとのことで、配列を変更していきました。

試適時の顔貌

適合性のチェック

内面の適合性に関しては、概ね良好であった。

治療義歯と最終義歯の変化

義歯の調整

義歯の最終装着時の顔貌

咬合高径は最終的に、術前と同等とした。

セット完了3週間後

粘膜面の適合のチェックを行った。義歯の沈下によって潰瘍があったため、義歯の調整・修正を行った。

セット完了1年後

潰瘍もなく問題なく使用されている。

不適切な前歯の位置を改善することにより口元が改善された。また、オトガイ筋の緊張が緩和されたこともわかった。